人がどうやってエコーチェンバーに囚われるのかを描く「イン・ザ・メガチャーチ」が面白い

浅井リョウ先生の「イン・ザ・メガチャーチ」が面白かったので感想文を書きます。浅井リョウさんの本を読むのはこれが初。

この本は今の時代に読んでないと雰囲気が捉えられない気がします。20年後に読むとおそらく感想が変わるし、今読むよりもインパクトが少なくなりそうです。

2020年初頭のコロナ禍あたりから世間の空気は一変し、緩くなだらかに広がっていた(ように見えていた)社会はそれぞれのクラスタに分かれ、各クラスタの中はエコーチェンバー(フィルターバブル)化。井の中で同調した意見が響き渡り、井戸はインターネットの海のあちらこちらに点在する始末。

どのSNSを見てもエコーチェンバーの中から漏れ出る他者への攻撃的な言説が溢れていて、正直社会全体が暗澹たる感じを帯びてます。となると人は気が付かないうちにエコーチェンバーに囚われることになりますが、それ客観的に見たらどうなるの?を書いた本です。

世の中にあるわかりやすいエコーチェンバーは「陰謀論」「ファンダム」「カルト宗教」等があり、この本では大体そういう類のテーマを扱っています。面白かったのはエコーチェンバーを作る側の視点を入れてるところ。10年程度過去に遡ればバズ狙い、ブーム作りのSNSマーケティングがあり、インフルエンサーマーケティングが社会問題になってステマを抑制するルールが整備されたりしました。

その後SNSを直接使ったマネタイズが一般化し、今やYouTuberが憧れの職業になる時代です。人やグループを中核としたファンダムが一つの経済圏を産み、ファンダムが自発的に経済圏を拡大する。「推し活」を無視したマーケティングは今となっては難しくなりました。

この本がどこまで取材して、どこまでフィクションを組み入れているかわかりません。しかし、世間ではモノを売るためにここに描かれてるような戦略を普通に実行してるはず。じゃないとYouTuberコラボなんてやらないし。

「物事をフラットに見たい」「自分をできるだけ客観視したい」と思ってる人は本書を読んでおくべきだと思います。マーケティング現場の本でもあり、ホラーでもあり…今のモヤモヤした世相をもやっとした状態で切り取った本でもあり。なかなか説明が難しい作品ではありながら、読むと若干の精神安定剤になり得るという謎の本。圧倒的な読みやすさもあり半日〜1日、2日程度で読み切れます。

しかし部屋に訪ねて行くところは辛かった。今の平常心の自分ではああならないとは思うものの、精神的にめげてたらああいう行動に出てしまう可能性は十分にあり得る。

小説ってのは作品に入り込みつつ、自分を俯瞰視できて良いっすね。